アース・セレブレーション|Earth Celebration

稽古場レポート


4月11日~13日に鼓童村で行った城山コンサートの稽古の様子を、ライターの今井浩一さんに取材していただきました。

取材・文 今井浩一(ライター)
撮影 岡本隆史

アースセレブレーションに新たなる萌芽の予感

 4月も半ばに差し掛かろうとする頃。東京はもう葉桜になり鮮やかな緑が目立ち始め、特急電車の車窓から眺めた信州では桜は満開の峠をそろそろ越しているところだった。揺れに揺れた船に乗り、小木港についたころには、晴れの予報に反して、佐渡は小雨が降り始めていた。予想外の肌寒さ。島の天気は変わりやすいのだという。迎えのクルマにのって数十分、鼓童村へ向かう道中はまだまだ冬の色をとどめてはいたけれど、来るべき春の息吹がまさにこれから弾けんとする“タメ”の季節に感じられた。

 鼓童村でもそんな春の鼓動と重なるように、いや、ひと足早く力強い萌芽を予感させる熱い時が流れていた。8月22日(金)24(日)に開催される「アース・セレブレーション2014」の稽古が、2泊3日の短期集中で行われていた。「アース・セレブレーション」と言えば、音楽の祭典というイメージだが、今年は、BLUE TOKYO(ブルートウキョウ)、DAZZLE(ダズル)という、国内外で活動する注目度の高い二つのダンスカンパニーが参加。天から降り注ぐようでもあり、地から湧き上がってくるかのようでもある鼓童の太鼓のリズムとセッションを繰り広げる。どうにもこの時期にしか合同練習のスケジュールが組めないことから、度重なる事前ミーティングをへて三者の初顔合わせとなった。正午近く佐渡に着いたダンサーたちは稽古場へ直行。3時間ほど遅れてついた私の目には、すでに何度も練習を重ねているかのような印象で、息の合った濃厚な稽古が進められていた。

エンターテインメントに昇華した新体操

鼓童の楽曲にあわせたBLUE TOKYOの演技

鼓童の楽曲にあわせたBLUE TOKYOの演技

 BLUE TOKYOは青森山田高校、青森大学の男子新体操部を経た選抜メンバーによって結成されたグループ。青森大学のレベルの高さはかねてより有名だったが、デザイナーの三宅一生氏がその公演をプロデュースしたことにより、急速にメディアの注目を集めた。新体操のアクロバティックな技の数々が、ストリートダンスとの出会いによって、従来のダンスにはないダイナミックなエンターテイメントへと昇華していった。指導に当たる荒川栄氏は「高校、大学と新体操をやって多くの選手は一般企業に就職していきますが、実はもっと続けたいという想いを持っている人間もいるんですよね。しかし競技に打ち込んだ人間ほど違うジャンルに行くのに勇気がいる。それを導く場を作りたかった。新体操って第一回目の国体から行われたほど歴史があるのに、肩身が狭いんですよ(苦笑)。純粋に新体操を始めた彼らがもっと陽の目を浴びる方法がダンスへのチャレンジでした。そしてクリエイションだけに命をかけてきた男子新体操の世界にプロモーションの部分を担うことができる。それがBLUE TOKYOです」と熱く語る。
BLUE TOKYOにアドバイスをする鼓童の芸術監督・坂東玉三郎氏

BLUE TOKYOにアドバイスをする鼓童の芸術監督・坂東玉三郎氏

 全員20代というメンバーが軽やかに、猛々しく躍動する。太鼓の重厚さを切り裂くようにトンボを切ったり、コンビの動きを決めていく。優雅なロープの演技、目にも留まらぬバトンという新体操特有の技がパフォーマンスのリズムを変容させていく。

 と、温かくも厳しい視線を送っていた坂東玉三郎芸術監督がスッと立ち上がってアドバイスを送る。「鼓童の皆さんが動きに合わせて演奏してくださっているのに、踊るたびにリズムが違うから申し訳なくて」(荒川)という状況を見抜き、初顔合わせのギクシャクを整えにいったのだ。その的確なアドバイスによって、その日の完成度が急速に高まっていく。芸術監督はまた、柔らかい笑顔で続く稽古を見つめていた。

BLUE TOKYO

BLUE TOKYO

 スタッフのご案内で、メイン会場となる城山公園を目指す。確かに島の天気は変わりやすい。芸術監督の助言で稽古場の霧が晴れたのと同様に、小雨も寒さもすっかり失せ、海の向こうに沈む夕陽の艶やかさと出会うことができた。残念ながら6時前には辺りは真っ暗になり、城山公園へと向かう細い急坂を上るのはあきらめざるを得なかったが。

 鼓童村に戻ると食堂では夕食が始まっていた。BLUE TOKYOのもう一人の指導者で、彼らをプロのダンスチームへと導いたキーマン、AKIKO氏は言う。「玉三郎さんからお声がけいただいた時に、『静と動のバランス、間(ま)の作り方をおこがましくも提案できるのではないでしょうか』と、おっしゃっていただいて。実は今の私たちの課題でもありました。全力のパフォーマンスを5分間すると息が上がってしまって……。その5分のインパクトが大きいからこそ、例えば90分の作品を目指した場合、そのあとをどう作るか考えると果てしなかったんです。トライアルできる贅沢な時間をいただき、今回のチャンスから何かが生まれるのではないかとワクワクです。」いつの間にか食事を終えたBLUE TOKYOのメンバーたちが、その言葉に静かに聞き入っていた。

美しく物語る、艶やかなダンス

DAZZLE?振付家・ダンサー 長谷川達也氏

DAZZLE振付家・ダンサー 長谷川達也氏

 稽古2日目は、DAZZLEが来年3月に坂東玉三郎氏の演出で行うダンス公演の一場面を披露するところから始まった。前日のBLUE TOKYOとは一転、優雅な大人の深みあるパフォーマンスを見せた。 「優雅な大人の深み」と書いて私自身も不思議な感じがするのは、DAZZLEがヒップホップからスタートしたグループだからだ。着実に評価を高め、海外のフェスティバルに参加し、ダンス公演としては巨大な東京国際フォーラムでの公演も実現させた彼ら。振付を手がける長谷川達也氏いわく「ヒップホップは気持ちが高揚してくるダンスですが、ずっと同じテンションではダンサーは体力が続かないし、見る側も飽きてしまう。僕らはオリジナリティーを追求していく中で物語、展開、構成、衣裳、音楽、舞台美術を使った空間を取り入れていったんです。そして、その中心にダンスがある。世界観とダンスの同調性が持ち味」とのこと。

DAZZLE

DAZZLE

 幾何学的な流れで動く和傘の動きに、なんだか見ていて異界の地へ妖しく誘われるようなダンス。長谷川氏と金田健宏氏によるペアのパフォーマンスも、トリッキーな身体から感情の機微が穏やかに、しかしあふれんばかりに伝わる。 連日にわたってまるで違うダンスを見せてもらったのだが、実は長谷川氏はBLUE TOKYOの振付・構成も手がけているのだから、驚きだ。「僕は彼らの動き、身体性に学んだことがありましたし、彼らは僕の舞台構成に興味を持ってくれてずっとやっている。でも音楽的なことも含めて作品も流れをどう作っていくかという部分は酷似しているんですよ。」(長谷川)

鼓童村中庭にて

鼓童村中庭にて

 別の稽古場で自主練をしていたBLUE TOKYOが戻ってきて昼食休憩。昨日とは打って変わった穏やかな日差しの下、鼓童、DAZZLE、BLUE TOKYOのメンバーが一緒になって蹴鞠を始めた。やがて、それは玉三郎芸術監督を囲んだ輪に。2泊3日の短い稽古のなかで、メンバーは急速に絆を深めていっている。

見せるべくは鼓童の「群」であり「個」

前田剛史氏(鼓童/左)、長谷川達也氏(DAZZLE/右)

前田剛史氏(鼓童/左)、長谷川達也氏(DAZZLE/右)

 「アース・セレブレーション2014」のメインイベント、城山コンサートは、22日(金)「海の祭」(演出:石塚充)は鼓童メンバーが総出演、23日(土)「大地の祭」(演出:前田剛史)は鼓童とBLUE TOKYO、そして24日(日)「祝祭」(演出:小田洋介)は鼓童とBLUE TOKYO、DAZZLEの出演で開催される。ここまで書いてきたように、これまでとはひと味、いや、ふた味も違ったものになるだろう。「大地の祭」の演出で、「祝祭」の稽古にも参加していた前田剛史氏は「BLUE TOKYOとDAZZLEの皆さんにはかなり刺激を受けましたね。けれど、僕ら鼓童もその絆を見せる場がアース・セレブレーションです。普段は国内外でいくつかの班に分かれて活動している僕たちが、一堂に顔を合わせる年に1回の機会、鼓童の底力をお見せします」という。

住吉佑太氏(鼓童/左)、長谷川達也氏(DAZZLE/中央)、小田洋介氏(鼓童/右)

住吉佑太氏(鼓童/左)、長谷川達也氏(DAZZLE/中央)、小田洋介氏(鼓童/右)

 そしてこの3日間の稽古を中心になって行ってきた「祝祭」を演出する小田洋介に話を聞いた。 「アース・セレブレーションは、僕たちが拠点とする大事な佐渡を皆さんに広く知ってもらう機会。それは今年も一緒です。ほかの演出のメンバーとも話したのは、一貫性があるというより、夏のフェスティバルを楽しむということにしたいなあ、と。ダンスなのか太鼓なのか、日本なのか外国なのか、そんなふうに限定したくないんです。なんの境界もなく、それぞれが開放的になれる、いろんな要素が入った大騒ぎという意味での祝祭性を実現したいですね。
『祝祭』では、鼓童の群であり、個であり、を表現する場になります。だから今までの鼓童の曲もほとんど使いません。改めて作ったり、見せ方を大きく変えたり。普段は歌ったり、ほかの楽器の演奏をしたりはしないんですけど、この日は鼓童の半纏(はんてん)を脱いで、違った可能性を広げていこうと思っています。そのために僕も普段からメンバーが何が好きで何が得意かを探ってきましたから(笑)。玉三郎さんが芸術監督になられて、いい意味で自由になったからこそBLUE TOKYO、DAZZLEとの新たな出会いも生まれたと思うんです。僕らは融合することなんか目指していません、マーブルチョコレートのように混じり合えばいい。それぞれがそれぞれの役割を果たして合流できればいい。けれど、踊りと太鼓は決して遠いものではないですよね。踊るために太鼓があったかもしれないし、太鼓があったから踊りだしたのかもしれない。」

BLUE TOKYO?と 鼓童

BLUE TOKYOと 鼓童

 最後に、芸術監督の言葉でしめよう。  「今回は、それぞれのカンパニーの特徴を学び合ういい機会になると思います。DAZZLEはやっぱり都会的な統制、BLUE TOKYOは身体的な訓練ができていて代表の先生を中心に統制が取れている。統制が取れている同士のいいコラボレーションになると思います。野外で開放的になって、これを楽しんでいただきながら佐渡の大自然を見ていただけましたら幸いです。」

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