アース・セレブレーション|Earth Celebration 2013

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上妻宏光インタビュー/共に伝えたい日本の音とリズム

津軽三味線の上妻宏光さんと鼓童が、昨年の出会いからさらに前進した舞台を目指し準備が進んでいます。4月に佐渡にいらした上妻宏光さんに城山コンサートで初演する新曲や共に伝えたい日本の音やリズムへの思いについてお話を伺いました。

対等のバランスで深める共演を目指して

── まずは、昨年の共演で感じられた鼓童への印象をお聞かせください。

 鼓童の皆さんとは以前から共演してみたいという思いがありましたが、長い活動の歴史があってその中で確立された鼓童のスタイルがあると思います。その確立された集団の音楽表現に、外部の人間が入っていくことは結構大変なことなんですね。一対一の共演ならば、もう少し自由度がありますが、鼓童には大編成のコンビネーションもありますし、ベテランから若手まで技量もそれぞれ違うところを集団生活の中でひとつにまとめて、さらにクオリティの高い形で仕上がっていますので、そこへソロで入っていくことへの怖さはありました。昨年、共演の機会をいただいて、まずは鼓童のスタイルに馴染むということから始まりました。

 昨年のECでは、日本の、それも佐渡から発信しているこのグループの凄さとパワーを感じました。あらためて僕も同じ日本人として邦楽器を扱う人間として、邦楽の醍醐味とかっこよさを海外に伝えたいという思いを強くしました。今度は自分が提案した楽曲で鼓童と上妻宏光による音楽を構築して、さらに前進したいと思いました。

 演出の坂東玉三郎さんからも、一回ではお互いにわからないから、さらにお付き合いしてより深いものを作ったらどうかというお話をいただき、2年目もまた参加させていただくことになりました。

── 今までの城山コンサートは、ゲストとのいわば一期一会の音楽でしたが、アーティスト同士が深め合って表現されるものを聞くことができるわけですね。

 それは時間のかかることですし、両者の思いがないとできないことです。鼓童もこれまでいろんな共演をされています。僕も他のジャンルのアーティストと三味線で共演もしてきましたけど、一期一会で出会って即興でやる気持ちよさや凄さもあります。でもゲストと共演する時、たとえば鼓童の皆さんがゲストに合わせたり、鼓童の音楽にゲストが入ってきたり、どちらかに寄り添う形になることが多いと思います。真ん中でいい具合にお互いが活きる音楽を、出会った瞬間に短時間で作るというのはかなり難しい作業だと思います。

 でも即興的な音楽ではなくて、西洋音楽のようにすべて譜面に書かれたものであれば、対等に真ん中で作品を作ることができますし、また将来、鼓童でメンバーが入れ変わったとしても同じものが再現できます。演奏者にもいろんな引き出しができますし、また一方で即興演奏する楽しみもできるでしょう。

 そういう意味で、今年は昨年よりも、もっと一歩も二歩も踏み込んだ共演というものを目指して、皆さんと頑張っている最中です。

日本の音、日本のリズム ─ 伝統と革新と

── 今回は、上妻さんからのご提案で三楽章からなる曲を初演すると伺いました。どんなイメージの曲なのですか?

 僕の音楽のベースとなる津軽民謡、その中にアイヤ節というのがあります。佐渡にはおけさ節がありますよね。そのアイヤ節もおけさ節も、九州のハイヤ節が元になっていまして、北前船が南から北へ航海していった時に伝わったものです。僕の音楽のベースは津軽ですので、では津軽を起点にそのルーツを逆に南下してみようと。北から南へ、その繋がり合う民謡独特のリズムと雰囲気を基調にしながら、鼓童と僕の作品を創り上げたいと思い立ちました。ECは外国人の方も多くいらっしゃるのでクラシックの形式も取り入れて音楽構成はクラシック的に、根底に流れる旋律やリズムは、民謡の持つ日本独自のものを考えています。

 僕は、このハイヤ節を含めて日本の民謡というのは独特なグルーヴを持っていて大好きなんです。外国人にとってもめずらしいと思いますし、興味をそそると思います。日本で育った日本人として日本の楽器で表現できる音楽を追求したい。数字では割り切れない間とか感覚、空気感。聞いた人が理屈はわからなくても「ああ、日本っていいよなぁ」って感じてもらえるリズムや旋律を、鼓童の皆さんと創り上げて伝えたいという思いです。

── そういうパートナーとして鼓童に魅力を感じていただけて光栄です。 

 鼓童は、太鼓という軸をもって、これだけ長い間海外でもやってこられて、その間メンバーも変化しながら続いてきたグループです。その鼓童が続いてくる中で、今までの鼓童の表現の伝統を守っていくことと革新していくことは、ひとつのスタイルが確立されると、そこから変化することが難しい時期というのもあると思います。生真面目に日本的でも遊びがなくてつまらない。でも遊びすぎるのも、鼓童らしくない。でもいろんなことに挑戦し続けて行くことで、鼓童の伝統的なスタイルも引き継いで長く活動していけるのだと思います。

 僕も三味線をやっていると伝統と革新の間でいろんなことを考えます。ずっと伝統を深く追求していく人間はたくさんいます。でも僕はそこには負けるつもりはありません。伝統楽器でありつつ、今を感じて現代の三味線音楽を作りたい。彼らを納得させる新しい音楽を作っていきたいと思うんです。

 そういう意味で、この共演がお互いのこれからの音楽表現に良い影響となっていくことを願っていますし、鼓童の皆さんにも共感していただけたら、ぜひいろいろな場所で一緒に演奏させていただけたらというのが、僕の夢ですね。

聞き手・構成・写真●洲ア純子


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